大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和32年(行)46号 判決

原告 丁介岩

被告 大阪府公安委員会

主文

原告の本件訴はこれを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、当事者双方の申立

原告訴訟代理人は、被告は原告に対し、第五八三六五号自動車運転免許証は昭和三二年一二月二〇日まで有効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、被告指定代理人は、原告の請求はこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求めた。

二、原告主張の請求原因事実

被告は昭和二六年一二月二一日原告に対し第五八三六五号自動車運転免許証を交付し、じらい原告において自動車運転の業務に従事して来たのであるが、当時右免許証については、免許を受けた日から一年九ケ月を過ぎかつ二年までの間において、主たる運転地を管轄する公安委員会に提出して更新(検査)を受けなければ、無効となる規則であつたので、原告は、右二年の期限前一ケ月である昭和二八年一一月二一日に右検査手続をすませて、右免許証を書替えてもらつたところ、その際係官は、今後の検査は三年年毎に受けることにかわつたと言い渡された。よつて原告は、右書替免許証の検査期間は昭和三一年一二月二〇日になるものとかたく記憶し、右期限の一ケ月前にその検査を受ける手続をしたところ、係官は右免許証を見て、昭和二八年九月に規則がかわつて検査は三ケ年毎となつたが、この免許証は昭和二六年一二月二一日の発行だから、有効期限は昭和二九年一二月二〇日までで、その日以後は無効のものである。とて受付けず、書替えを拒否した、そこで原告は被告に対し、(1)昭和二八年一一月二一日検査を受けた時には、すでに規則がかわつて有効期間が三ケ年となつていたのであるから、当該係官としては、検査申出は早過ぎて違法であるから、二年九ケ月を過ぎた昭和二九年九月二〇日以後にせよ、と注意して検査を拒否するのが至当の処置である。(2)、しかるに当該係官は事務的に原告の検査申出を受理し、間違えて原告の免許証を書替えたため、原告の免許証の無効問題が発生するにに至つたのであり、(3)、この責任は被告の負うべきものであり、原告の免許証は規則通り三ケ年後の昭和二九年一二月二一日に検査を受けて更新されていたならば、昭和三二年一二月二〇日までは当然有効であるから、右の日まで右免許証が有効であることを認められたい、と訴願書を提出した、けれども被告は右訴願に対しいまだに何の裁決もしないのである。

三、被告の答弁

原告に対し昭和二六年一二月二一日第五八三六五号をもつて小型三輪自動車免許証を付したのは、訴外のもとの大阪市公安委員会であり、原告主張の右免許証についての検査手続を昭和二八年一一月二一日にすませたとの事実は否認する、右訴外もとの大阪市公安委員会が昭和二八年一一月二一日原告から受理した申請書は、道路交通取締法施行令第六二条に基く自動車運転免許証破損書替申請書であり、同委員会は右申請に基き破損による免許証の書替をして原告に交付したものである、そしておよそ自動車運転免許を受けたものは、道路交通取締法施行令第五七条に基き、免許を受けた日から起算して三年ごとに免許証について主たる運転地を管轄する公安委員会の検査を受けなければならないのであり、原告としては、昭和二九年一二月二一日までに右訴外もとの大阪市公安委員会に検査のため免許証を提出してその手続をしなければならなかつたのに、原告はこれをしなかつたのであるから、同条第二項により右免許証はその効果力を失つたものである、そして原告が被告に訴願書を提出したということはない。

四、証拠〈省略〉

理由

まず原告の申立について考えるに、第五八三六五号自動車運転免許証が昭和三二年一二月二〇日まで有効であることの確認を求めるというのであるが、これを原告の請求原因事実と対照して見るならば、それは、被告に対し、右免許証の有効期間を右昭和三二年一二月二〇日まで延長することの行政処分を求めるものであるか、または被告が右行政処分をなす義務あることの確認を求めるものであると解するほかはない。

ところで行政庁(公安委員会などの行政委員会などをふくむ)に対し行政処分を求め、あるいは行政処分をなす義務あることの確認を求める訴訟は、原則として例えば地方自治法第一四六条あるいは職業安定法第五七条などのように、特別の規定のない限り許されないものといわねばならないのであつて、そのわけは、もしこれを許すにおいては行政権と司法権の分立均衡を害し、裁判所が訴訟手続によつて行政を行う結果となり、他の機関の行政行為の当否を事後審査するという裁判所の任務に反することとなるからである。そして本件が右原則の例外をなす場合であると見なければならない事情は原告の主張から発見することができない。そうだとすると、原告主張の請求原因事実及び被告の答弁について判断するまでもなく、原告の本件訴訟は不適法であつて、これを却下せざるを得ず、訴訟費用につき民訴法第八九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 入江菊之助 山口幾次郎 野田栄一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例